ネットワーク社会における文化・芸術の展望〜いま、なぜデジタル・アーカイブか〜
講師 東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授 武邑光裕氏
【たぐち】

だ、とのことでした。このように、アメリカが世界の文化情報をサイバースペースの中に膨張させているということは日本にとって、どんな意味を持っているのか。
 武邑氏のその問いかけには、一種の危惧というものが言葉尻に感じられる気がしました。

■日本の文化

 その危惧は、日本という国のアイデンティティを、ブランド力をどう保っていくのかという問題意識であるのではないでしょうか。武邑氏は、日本の文化は実はきわめて影響力の強いサブカルチャーとして、世界の文化に影響を与えているのだということをおっしゃっていました。世界中の子供がこぞってみるアニメや、飽きずに遊ぶテレビゲーム、そして冷蔵庫などの工業製品、音楽、映画。世界に誇るこれら日本の文化芸術資源を世界的な文化価値として再活性化することが重要なのでしょう。

■都市のアーカイブ

 国だけでなく、地方や個人のアイデンティティも求められています。そして、都市のアーカイブという試みも行われています。講演では、ドイツと京都をテーマとしたアーカイブが登場しました。前者はドイツのベルリンをアーカイブ化したもの。またあらゆる伝統文化が集積する都市、京都はいわばデジタルコンテントの宝庫。後者のアーカイブは武邑氏自身も携わっておられるもので、
「デジタル・ジャパネスク」というプロジェクトを通して、都市のアーカイブを実現化しようとするものでした。また、「情報の見せ方」も、近未来にかけての模索の一つ、のようです。ベルリンの例では、現代のベルリンに立っていて、40年前の過去のベルリンの街に入っていけるのです。都市は文化の記憶、土地の記憶を内在していて、その土地の内部的記憶を外在化していくというアーカイブという、まったく新しい方法があるのではないかとおしゃっていました。デジタル・ジャパネスクのアーカイブにおいても、連動しているイメージを、画面上に漂わせるなどの試みを盛り込んでいると述べておられました。

■まとめ

 今回は、数々の事例を織り交ぜながらの講演で、ネットワークとそれがもたらしている現在を知り、未来を予感させるものでした。同時に、ゲーム・アーカイブプロジェクトも、日本のデジタルコンテントを発信するという視点をもって、アーカイブの中身、見せ方を考えていかなければならない、と感じます。
 京都の学生としては、京都という都市に記憶され、受け継がれた文化資産を世界に発信する試みに挑戦されている武邑氏の今後のご活躍に大いに期待を寄せるところでもあります。
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